がんの余命

がんの“余命”について考える

多くのがん患者さんやそのご家族は、様々な場面で“余命”を宣告されます。最初にがんと診断されたとき、治療方針を決めるとき、がんが再発したときなど、何らかのタイミングで、あとどれくらい生きることができるのか、医師からの話を聞くことになります。
ではこの“余命”は、どのように算出されているのでしょうか。

“余命”はあくまでも推測

“余命”は、「あとどれくらい生きられるのか」と捉えがちです。医師から「この治療をすれば“余命”は3年ほどですが、治療をしなければ、“余命”は1年ほどです」といわれると、患者さんやご家族は「この治療をすればあと3年は生きている」と捉えがちです。「それならば、多少辛くてもこの治療を受けよう」と、考える人も多いのではないでしょうか。

あながち間違いではないのですが、“余命”は“残された命の期間”とは違います。なぜなら、人がいつ亡くなるのかは、正確には誰にも分からないからです。

医師から「あなたの余命は3か月です」と言われても、結果的には1か月足らずで亡くなる場合がありますし、3年以上生存していることもあります。“余命”とは、あくまでも「これくらいの期間は生存しているであろう」という推測に過ぎないのです。

医師はどのように“余命”を推測するか

医師は、自らの勘をたよりに“余命”を導き出しているわけではありません。多くの場合、がんに対する“5年生存率(5年相対生存率)”というデータを元にしています。

あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
* 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団。
引用:国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター

“5年生存率”は、がんが発生している部位によって違います。また、がんが発見された時の進行度(ステージ)によっても変わってきます。転移などにより複数の部位にがんが発生している場合も、“5年生存率”は変わりますし、複数の部位にがんがある場合は、どちらが先に出来たものか、転移したものか、同時に発生したものか、様々な要因を総合的に判断し、おおよその“余命”を推測しているのです。

2006年から2008年にがんと診断された人の“5年生存率”で考えてみましょう。例えば、前立腺がんの場合、“5年生存率”は、97.5%です。つまり、前立腺がんと診断されても、ほとんどの患者さんは、5年後も生存している可能性が高いといえます。一方で、膵臓がんの場合、“5年生存率”は、わずか7.9%です。つまり、膵臓がんと診断されると、5年後まで生きている確率は非常に低いことが分かります。

これらは、日本人のがん患者さんのデータを元に導き出されていますので、日本で生活している日本人であれば、おおよそ当てはまっていると考えられます。医師には、それまでの経験もありますから、「このタイプのがんでこの進行度なら、今後はこのような過程を経るだろう」という予測ができます。これらを総合的に考えて、“余命”を推計しているのです。

統計的なデータで推測された“余命”

もう1つ、“余命”の推計に役立つデータがあります。これを“生存期間中央値”といいます。先ほどの“5年生存率”は、あるがんを発症した患者さんが、5年後にどれくらいの確率で生存するかを示したものです。しかし、これだけでは「あなたの“余命”はあとどれくらいか」を導き出すことは出来ません。“5年生存率”は、あくまでも「5年後にどれくらいの人が生存しているか」を示しているからです。

しかし、がんのタイプや進行度により、様々な治療法が確立されてきています。例えば、抗がん剤を使用する場合、その抗がん剤を使うことで、実際にどれくらいの人がどれくらいの期間生存していたかを示すデータがあります。これを、生存期間中央値(MST)といい、下記のようなグラフで表すことができます。


生存期間中央値

生存期間中央値は、ある治療を行った患者さんが101人いたとき、生存期間の短い方から長い方に順に並べ、ちょうど51人目の方が亡くなった時が生存期間中央値になります。上図の場合は2年です。例えば、医師から“余命”を宣告されるとき、「この治療を行えば“余命は●年”」といわれたら、それは生存期間中央値を参考にしていると考えて良いでしょう。

“余命”は短めに伝えられることが多い?

新しい薬剤や治療法により、数年前よりも“5年生存率”が高くなっているがんや、生存期間中央値が長くなっているがんがありますが、今後どのような経過をたどるのか、実際には分かりません。その時点では“余命3年”と考えられていても、実際には1年足らずで亡くなる方はいますし、5年以上生存している方もいます。しかし、“余命1ヶ月”と考えられるような病状であれば、数日程度で亡くなる方はいますが、その後数年間生存しているケースは少ないと考えて良いでしょう。“余命”はあくまでも推計ですので、長くなるほど誤差は大きくなり、短くなるほど誤差は小さくなります。

医師が実際に“余命”を伝えるときは、推計よりも短く伝えていることが多いようです。長めに伝えてしまうと、それよりも早く亡くなったときに、ご家族は「この治療は適していなかったのではないか」と考えてしまいます。しかし、短めに伝えている場合、それよりも長く生存していれば、ご家族は「よく頑張った」と考えることが多いでしょう。“余命”は、あくまでも推計ですので、誤差が出るのは仕方のないことですが、医師からの“余命宣告”は、必ずしも正確ではないことを、理解しておきましょう。

“余命”は、より正確になっていくのか

2016年1月、国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター(以下、国立がん研究センター)は、“全国がん登録”をスタートさせました。これは、日本でがんと診断されたすべての患者さんのデータを1つにまとめ、集計・分析・管理していく新しい仕組みです。それまでは、都道府県ごとに、協力医療機関を受診しているがん患者さんのデータを、集計・分析・管理しているものでした。しかしこれでは、すべてのがん患者さんのデータが対象にはなっておらず、患者さんの転居や転院により重複する可能性があるなど、正しい情報ではない可能性が指摘されていました。

“全国がん登録”制度により、居住地域等にかかわらず、全国どこの医療機関でがんと診断されても、国のデータベースで一元管理されるようになりますので、より正確な日本人のデータとなります。

“余命”は、“5年生存率”を元に推計されますが、全国すべてのがん患者さんのデータを元にすれば、“5年生存率”も変わってくるでしょう。母数が大きくなるほど、そこからの推計値は正確なものに近づくためです。

この制度はまだ始まったばかりですが、数年後には、より正確な“5年生存率”が導き出されるようになりますし、ここから推計される“余命”も、より正確なものに近づくかもしれません。

“余命”は、がん患者さんやご家族の生活を、一変させるかもしれません。“余命宣告”を受けることで、自分の死期が迫っていることを、認識するようになるでしょう。中には、悲観的になってしまう方もいます。しかし、ある程度の目安としての“余命”を知ることで、やり残したことに挑戦するチャンスでもあるのです。

<参考資料>
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 最新がん統計
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター 全国がん登録とは
Minds ガイドラインセンター 一般向けガイドライン解説・カテゴリー別 生存率,生存期間とは?


戦国武将とがん

書評

がんの種類