腫瘍減量手術

皆さんは、がん治療に用いられる腫瘍減量手術という方法をご存知でしょうか。手術によりがん細胞(腫瘍)を切除することではありますが、その実施にはいくつかの方法があります。ここでは腫瘍減量手術の基本的な事柄についてご紹介していきます。

腫瘍減量手術って何?

腫瘍減量手術とは、DS(デバルキング・サージャリー)とも呼ばれます。これは、患者さんの病状により、がんのすべてを取り除くことが不可能な部位や症例に対して、可能な限りがん細胞(腫瘍)を取り除く手術のことです。大きく3種類に分かれます。

PDS(プライマリー・デバルキング・サージャリー)
後述するIDSと比較すると、手術時間が長い、合併症が起こりやすい、出血量が多い、などがありますが、初めての手術でがんの広がっている部分(腫瘍およびその周囲の組織)を可能な限り切除する方法です。

IDS(インターバル・デバルキング・サージャリー)
がんの広がりを調べたり、組織をとって検査するときには、「試験開腹」と呼ばれる手術が行われます。その時にがん細胞を含む一部の組織を切除することがあります。IDSはそれよりもさらに後、がん細胞(腫瘍)に対する初回化学療法の途中段階で、がん細胞(腫瘍)を摘出する方法です。

SDS(セカンダリ・デバルキング・サージェリー)
初回の化学療法終了後、身体の中にがん細胞(腫瘍)が残っていると確認されたとき、あるいは再発している場合に、がん細胞(腫瘍)に対して完全に摘出する、あるいは可能な限り切除するために行われる方法です。

いずれの方法を主に行うのかは、施設によって異なります。しかし、たとえばがん治療の1つの指標とされる「5年生存率」や、がんそのものに対する治療成績は、PDS、IDSともに同程度とされています。また、腫瘍減量手術と並行して、放射線療法や化学療法を行うことで、がん細胞(腫瘍)を根絶できる可能性が高まるケースや、症状の緩和や余命の延長が期待されるケースもあるといわれています。

少しややこしいですが、がんの治療法には手術療法、化学療法、放射線療法、免疫細胞療法などいくつかの方法があり、病状や患者さんの状態に応じて、どの治療法を組み合わせていくかが決まります(内部リンク:集学的治療)。この過程の中で、「可能な限りがん細胞(腫瘍)を切除する」治療法が腫瘍減量手術であり、あくまでも「腫瘍を可能な限り切除する」ことが目的です。つまり、これ(1回の手術)だけで治療が完了するわけではない、ということです。

腫瘍減量手術が向いているとされる「がん」は?

では、腫瘍減量手術による効果が期待できるのは、どのようながんでしょうか。

現在の日本では、腫瘍減量手術が施行されるがんの症例として、卵巣がん、子宮がんなどが挙げられます。この2つのがんに対しては、診療ガイドラインにも「腫瘍減量手術」が明記されており、実際に施行されるケースが多いようです。卵巣がん、あるいは子宮がんで、進行が早い、完全切除が難しい場合が多い、腹膜播種や大量の腹水を伴う、といった場合でも、化学療法などを行った後に手術を施行するケースもあります。

例えば、卵巣がんにおける腫瘍減量手術に関する記述をみてみましょう。
・PDS(またはPCS:primary cytoreductive surgery)
・初回手術として、病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減量を行う手術
・IDS(またはICS:interval(cytoreductive)surgery)
・初回の化学療法中に、病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減量を行う手術
・SDS(secondary debulking surgery またはSCS:secondary(cytoreductive)surgery)
・初回化学療法終了後に認められる残存、あるいは再発腫瘍に対して病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減量を行う手術

一般的には少し難しい言い回しではありますが、卵巣がんの治療方針の1つに、腫瘍減量手術があることが分かります。 しかし、卵巣がんに限ってみても、化学療法と腫瘍減量手術のどちらを先に行うのかは、結論が出ていません。その理由はいくつかありますが、「腫瘍摘出率の向上や、無増悪生存期間(PFS:今の状態よりも悪化せずに生存し続けられる期間)の延長、患者さん自身のQOLの改善は期待できるが、長期生存率の改善については明確な研究データが無いため」といわれています。

卵巣がんの60%は進行がんであるとされており、治療方針としては、手術療法と化学療法を組み合わせて行われることが多いようです。確定診断や良性・悪性の診断、悪性の場合は卵巣がんのタイプや進行度の確定などのために、試験開腹が行われることがあり、がん細胞がお腹の中に広がっている(腹膜播種)ことが確認されたら、それらを切除することもあります。これらと平行し、化学療法をどの段階で行うのか、腫瘍減量手術をどのタイミングで行うのか、患者さんそれぞれの状況によって変わってきます。

この他にも、標準的な治療法としては確立されていないものの、「転移により非治癒因子を有している胃がん患者の延命を目的に施行された例」や、「肺がんの口腔転移の症例に対して施行された例」があります。

腫瘍減量手術によるデメリットはあるのか

腫瘍減量手術は、全ての症例に適応できる手術ではありません。現在この腫瘍減量手術を行った後に治療を継続した場合と、腫瘍減量手術を行わずに治療を継続した場合を比較したデータがないため、「そもそも腫瘍減量手術をすることが本当に生命予後を延長することに繋がるのか」と疑問視する声も少なくありません。さらに、手術に耐えうる体力を持っていないと、治療自体を受けることができないケースもありますし、手術であるため最悪の場合は術中に亡くなってしまう可能性もあることなどが、デメリットとして考えられています。

一方で、腫瘍減量手術そのものに対する反対意見もあります。例えばPDSの場合、初回の開腹手術を行ったときに、がん細胞(腫瘍)およびその周辺組織も大きく切除することになります。

卵巣がんにおける切除範囲の一例
図 卵巣がんにおける切除範囲の一例

対象となるのは、卵巣を含む付属器の両方(左右とも)、子宮全体、大網(胃の下部から結腸にかけて付属している網状の組織)です。腫瘍減量手術のうち、PDSの場合は初回の手術でここまで大きく切除することになります。

もちろん、手術による治療効果が期待できるからなのですが、一度に多くの組織を切除することにより、患者さんの身体には大きな負担がかかります。また、その後の化学療法の進行にも影響することがあるため、同じ腫瘍減量手術の中でも、PDS、IDS、SDSのうち、どれを選択するのかは、患者さんの状態によって変わってきます。卵巣がんだからといって、必ずしも手術の適応になるとは限らないのです。

他のがんについてみてみましょう。 例えば胃がんの場合、手術によりがん細胞(腫瘍)を含む胃およびその周辺組織を切除する手術が多く行われていました。しかし現在では、化学療法をメインとした治療法が選択されるケースがあります。胃がんの場合、胃やその周囲の組織を切除することが、腫瘍減量手術です。その後に化学療法を行うか、そもそも腫瘍減量手術を行わずに化学療法のみを行うか、治療法が選択できる時代になったといえるでしょう。

まとめ

腫瘍減量手術は、がんのタイプや進行度、患者さんの状態により、適応となるかどうかが決まります。がん細胞(腫瘍)を可能な限り小さくし、その他の治療法と組み合わせることで、根治できないがんに対し、延命を期待することができます。

しかし、手術である以上、それなりにリスクやデメリットもあります。がん細胞(腫瘍)に対する手術は、あくまで治療法の一つとして捉え、病状や患者さん自身の体力などを加味して、主治医とじっくり相談することがお勧めです。

参考文献

財団法人臨床研究情報センター.http://www.tri-kobe.org/
日本婦人科腫瘍学会:130頁.https://jsgo.or.jp/guideline/taigan/05.pdf
日本癌治療学会:がん診療ガイドライン.http://jsco-cpg.jp/guideline/22.html
近畿大学医学部 外科学教室:さらに詳しい胃がんのお話.http://www.kindai-geka.jp/general/esophagus/more/
九州大学病院 がんセンター 九州大学病院のがん診療:子宮がん・外科的治療.http://www.gan.med.kyushu-u.ac.jp/general/result18/index3.html
香川県立中央病院:当院における卵巣がん治療方針.http://www.chp-kagawa.jp/department/a020/pdf/a021_01_03.pdf
東邦大学医療センター大橋病院婦人科:卵巣がんについて.http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/gyne/patient/detail/ovary_cancer.html
日本胃癌学会:胃癌治療ガイドライン 医師用 2014年5月改訂【第4版】2章 治療法 B 手術.http://www.jgca.jp/guideline/fourth/category2-b.html

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